先日最終回を迎えた日本テレビのドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』が、ちょっとしたブームでした。出演者がテーマ曲に合わせて踊る『恋ダンス』をまねた多くの動画が投稿され、羽生弓弦さんやケネディ米国大使も踊ったことが話題になりました。
このドラマは、「社会派ラブコメディ」と称されている通り、現代日本の多様な恋愛事情を取り上げています。まず、特殊な「契約結婚」を選んだ主役のカップルのうち、男性の方は、30代で異性と付き合った経験すらない「プロの独身」。キャリアで成功する一方で婚期を逃したアラフィフ女性や、ゲイの男性なども登場します。もちろん「社会派」ではあっても「ラブコメディ」ですから、それぞれの問題を深く掘り下げたり、解決策を示すものではなく、「みんなしあわせになりそうで、よかったね」という無難な終わり方でしめています。
ただ、その中に、なかなか参考になる場面もありました。例えば、主人公のカップルが共同生活の契約内容を見直すために定期的に会議を開いたり、火曜日を「ハグの日」として互いの愛情を確認する仕組みをつくったりするのですが、これは、実際の夫婦関係においても必要なものだと思いました。
総じて日本人は、遠慮がちで控えめな人が多いですから、夫婦間であってもお互いに抱えている不満やわだかまりを伝え合わないままで過ごすケースが目立ちます。すれ違いや誤解は、一つ一つが小さなものであったとしても、塵も積もれば山となり、お互いへの不信感や嫌悪感、あきらめといった感情につながっていきます。
どんな関係においても、長持ちさせようとすればメンテナンスが必要です。そして適切な修繕を行うためには、こまめな点検、観察が欠かせません。耐えきれなくなっての爆発ではなく、関係をメンテナンスするというはっきりした意図をもって、定期的にお互いの抱えている不満やわだかまりを伝え合う場をつくることは、関係性の修復、再構築をもたらす有効な仕組みではないでしょうか。
もちろん、伝え合うことはネガティブなことだけではありません。お互いに対する感謝、未来に対する夢や計画など、「私」ではなく「私たち」として一緒に進んでいくために、お互いが共有する領域を広げていくことが大切なのです。
結婚研究の権威であるジョン・ゴットマン博士は、「愛情地図の質を高める」ことの大切さを説いています。相手の夢や悩み、趣味や食べ物の好み、これまでの人生での大切な出来事や友達など、お互いの情報を、しっかりと知って憶えている夫婦ほど、質の高い結婚生活を送れるというのです。「配偶者のことは、誰よりも私が知っている」と言い合える夫婦こそ、ベストカップルなのです。
家庭内別居や、熟年離婚が増えていると言われる日本。最後に、このドラマの主人公が言ったセリフ、「いつだってまた、火曜日(ハグの日)から始めよう」が必要な夫婦も多いかもしれません。お互いを愛おしいと感じたり、支えたり、支えられたりした思い出がどんな夫婦にもあるはずです。そんな絆を一週間、一か月のうちに一度でも思い出す機会をもてるなら「いつの間にか取り返しがつかないほどに心が離れていた」という悲劇は少なくなるに違いありません。
執筆者
ジョバンニ
家庭問題ライター
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