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家庭教育フォーラム

親子の信頼関係あってこそのしつけ

2016/10/28

バイオリニストの高嶋ちさ子さんが、東京新聞の子育てコラム(2016年2月12日)で書いた内容がSNSやネット上で物議をかもし出し、話題になったことがありました。コラムの内容というのが、簡単に説明すると、「家庭内のルールを破ったので、息子のゲーム機をバキバキに折った」というもの。

コラムの中で高嶋さんはゲーム機を折るに至った経緯と理由を述べていました。高嶋さんは、ゲーム機を子供に与えない方針なのですが、長男が扁桃の手術をして入院していた時、友達の母親が「入院中は暇だろうから」とプレゼントされ、特別に許すことに。次男もいるため、公平にと考えて次男には高嶋さん自身がゲーム機を買い与えたそうです。元々ゲーム機を与えることに反対していたのは、息子達がゲームにのめり込みすぎてしまわないか不安な面もあったのでしょう。そのため、ゲームをするにあたって、『ゲームは週末に宿題が終わって時間が余ったときだけ』という家庭内ルールを設けたのでした。既に設けてあったルールの中に、『19時以降、子供は電化製品に触れない』というものがあったので、土曜日の17~19時までがゲームの時間という約束が高嶋親子の間で交わされました。

 

しかし、まだ小学生の男の子。週1回、それも2時間だけしかゲームが許されないルールではゲームを満喫することはできなかったのでしょう。ある金曜日の夜、高嶋さんがコンサートから帰ると、長男がゲームをしているところを発見。宿題も終わっていないというので、高嶋さんは激怒し、ゲーム機を手でバキバキと折ったのでした。それを見て悲鳴を上げ、かなり落ち込む長男。次男についても、その日はチェロの練習をしていなかったことに怒り、自ら買ったゲーム機も折って壊してしまいました。

「あなたはゲームが一生できないことを嘆くよりママからもう二度と信用されないことを心配しなさい!」と怒ったそうです。長男にどうしたらいいのか聞かれると、「もうあなたを信用しないから、どうやって信用を取り戻すかを考えなさい!」と厳しい答えを返す高嶋さん。長男は「なんで1日待てなかったんだろう。おれはバカだ~」と頭を抱えたそうです。

ここまでを見れば、ついお子さんの方に肩入れしてなんて酷い母親だ、しつけにしてはやりすぎてると思ってしまいがちですが、これにはまだ続きがあるのです。翌週、長男は算数のテストで満点を取り、友人から「ゲーム機折られたんだろ」と言われると、「折られたおかげで満点取れたんだよ」と自慢し、友人を感心させたのでした。

コラムでは、「私がバキバキに折ったゲーム機。約束は守らないといけません」とのキャプションを付けて、2つに折ったゲーム機2台の写真を掲載していました。ゲーム機の側面に貼られたシール、使い込まれた様子から、ゲームをする時間を楽しみにしていたことが分かります。しかし、残念ながらきれいに真っ二つ。その時の長男と次男の悲鳴が聞こえてきそうです。ですが、その後の長男の発言を見る限り、母親への信頼を取り戻そうと頑張って勉強したことがうかがえます。

 

SNS上では、このコラムを取り上げて、、高嶋さんを非難したり、息子の方を擁護したりするコメントも多くありましたが、中には自分も親にゲーム機を折られた経験がある、ここまで議論をかもし出す必要があるのかという意見もありました。確かにしつけは各家庭内で基準が違いますし、それぞれ考え方が違うので、高嶋さんのやり方に納得できる、納得できないという人が出てくるのは当然のことだと思います。ですが、一番問題に取り上げるべきは、高嶋さんとお子さんの親子関係なのではないでしょうか。厳しいしつけだとは思いますが、それでもお子さんは母親の信頼を取り戻すために算数のテストで満点を取りました。きっとお子さん本人もルールを破った自分が悪かったと思ってのことだったのでしょう。親子の間で信頼関係がなければお子さんはこのような行動には出なかったと思います。

いくら周りが厳しすぎるしつけだと言ったとしても、根底には親子間の信頼があるからこそ厳しいしつけができるのではないでしょうか。母親にも子供に嫌われることはしたくないという思いはあります。だからといって悪いことをしたときにきちんと言い聞かせ、子供自ら行動を起こさせるように叱る、しつけることは簡単にはできません。子供に対して親が愛情を込めて育ててきたと親も自負し、子供も分かっている、そのような親子関係を築いていくことが、しつけの第一歩になる、そんなふうに思います。

執筆者


岸元 実春【この執筆者の他の記事】

フリーライター